安全衛生情報センター
東電福島第一原子力発電所の廃炉作業等に従事する者の熱中症予防対策については、労働安全衛生法及 び労働安全衛生規則に基づき各事業者に実施義務があるが、発電所長及び元請事業者は、熱中症の予防、 熱中症による健康障害の疑いがある者の早期発見や重篤化の防止の観点から、労働安全衛生法、労働安全 衛生規則及び「職場における熱中症予防基本対策要綱の策定について」(令和3年4月20日付け基発0420第 3号)に基づき対策を実施するとともに、特に以下の点について重点的に実施すること。 1 作業環境管理 発電所長及び元請事業者は、次に掲げる事項を実施すること。 (1) WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature)の値の活用 作業場所ごとにWBGT測定器を設置すること等により、当該場所における熱中症のリスクを把握・評 価の上、作業時間、休憩の頻度・時間、作業強度の変更等を行うこと。また、熱中症のリスクの評価 の結果について記録すること。 (2) 休憩施設の設置 作業者(労働者だけでなく、労働者と同一の場所において当該作業に従事する労働者以外の者を含 むものであること。以下同じ。)の人数、作業場所からの距離等も考慮の上、作業者の休憩に必要な 休憩施設を適切に設置すること。休憩施設には冷房、トイレを配置するとともに、作業者が水分及び 塩分を補給できるようにすること。また、身体冷却のための冷却材、心拍計、体温計等、緊急時の対 応も想定した機器を配置すること。さらに、作業の内容等に応じ、作業場所の近傍に車両等を用いた 簡易な休憩施設を設置すること。 特に、施設内での水分及び塩分の補給に当たっては、内部被ばくを防止するため、施設内の空気中 の放射性物質の濃度を測定するとともに、当該放射性物質の濃度をできるだけ少なくするよう、フィ ルターによる空気中放射性物質の除去、粘着マットの活用等、必要な措置を講じること。 2 作業管理 発電所長及び元請事業者は、次に掲げる事項を実施すること。 (1) 作業時間の短縮等 作業場所における熱中症のリスクに応じて、作業時間の短縮、休憩の頻度や休憩時間の調整、作業 強度の変更等を行うこと。また、一回の作業時間に上限を設定すること、日中の暑い時間帯を避け、 早朝、夕方の比較的涼しい時間帯に作業を行うこと等、作業時間の設定に留意すること。 特に、熱中症による死亡災害が多く発生する7月、8月の14時から17時の炎天下においては、原則と して熱中症のおそれのある作業を行わない等、厳しい条件下での作業に十分に配慮した作業時間を設 定すること。なお、連続的な監視が必要な作業等、やむを得ず作業を行う場合には、休憩の頻度、休 憩時間の増加等、熱中症予防対策に万全を期すこと。 (2) 暑熱順化 新たな作業者については、順化のための期間を設け、作業時間や休憩の頻度、作 業強度の調整を行う等、熱への順化に留意すること。熱への順化期間については、7日以上かけて熱 へのばく露時間を次第に長くすることを目安とすること。 (3) 水分及び塩分の摂取 作業を管理する者が、作業者に対し水分及び塩分を摂取するよう注意喚起し、作業者の自覚症状の 有無にかかわらず、作業前後において水分及び塩分の摂取を徹底させること。また、チェック表を用 いる等により個々の作業者が確実に水分及び塩分を摂取していることを確認し、記録すること。 (4) 適切な保護衣の着用 透湿性・通気性の良い服装を着用させるとともに、必要に応じ、身体を冷却する機能を持つ作業 着(クールベスト等)を着用させること。また、直射日光下では通気性の良いヘルメット等の着用、後 部に日避けのたれ布を取り付けて輻射熱を遮ること等の措置を実施すること。 (5) 作業を管理する者による確認、指導 作業中は、作業者の様子に異常がないかを確認するため、管理・監督者が頻繁に巡視を行うほか、 作業者同士で声を掛け合う等、相互の健康状態に留意させること。 また、作業を管理する者は、WBGT値の測定状況、水分及び塩分の摂取状況、作業者の健康状態のチ ェックの状況等について確認・指導を行い、対策が確実に実施されるよう徹底すること。 (6) 熱中症による健康障害を早期発見するための連絡体制の整備 作業者が熱中症の自覚症状がある場合や、作業者に熱中症が生じた疑いがあることを他の作業者が 発見した場合にその旨を報告させるための体制を整備し、関係者に周知すること。 報告体制の整備については、作業者から電話等による報告を受けることや(5)の管理・監督者の巡 視のほか、2人以上の作業者が同時に作業を行うことにより互いの健康状態を確認させるバディ制の 採用、ウェアラブルデバイスを用いた作業者の熱中症のリスク管理等があげられること。 ただし、バディ制を採用した場合であっても、全面マスクの着用等により、意思疎通が十分にでき ないことや熱中症が生じた疑いがあることを早期に発見できないおそれもあることから、熱中症の自 覚症状があるような場合には早期にバディに伝えることとする等、早期発見につながるような運用ル ールを定めること。また、ウェアラブルデバイスによる管理については、必ずしも当該機器を着用し た者の状態を正確に把握することができるわけではないため、他の方法と組み合わせること等により、 リスク管理の精度を高めることが望ましいこと。 3 健康管理 発電所長及び元請事業者は、次に掲げる事項を実施すること。 (1) 作業者の健康状態の確認等 作業指揮者は、作業開始前に、睡眠の状況、朝食の摂取、前日の飲酒、発熱や下痢等の体調につい て、チェック表を用いる等により個々の作業者の健康状態を確認し記録するとともに、休憩時間、作 業後に体調の変化がないか確認し必要な措置を講じること。また、作業者に対して日常の健康管理に ついて指導するほか、朝礼等の際にその症状等が顕著にみられる作業者については、作業場所の変更 や作業転換等を行うこと。さらに、全面マスクの着用等により意思疎通が十分にできないおそれもあ ることから、体調不良の場合には必ず申し出るよう作業者に周知すること。 (2) 健康診断結果等に基づく対応等 ア 定期健康診断等の実施やこれに基づく事後措置の徹底を図るとともに、糖尿病、高血圧症、心疾 患、腎不全等の熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患の有無にも留意し、作業時間の制限 等の適切な措置を講じること。 イ 監理・監督者による巡視、作業者からの申し出、休憩時の心拍数(bpm)のモニタリング結果等に より、熱へのばく露を止めることが必要とされている兆候を把握した場合は、作業中断も含めた措 置を行う等作業者の健康管理を行うこと。なお、熱へのばく露を止めることが必要とされている兆 候としては、心機能が正常な作業者について心拍数が数分間継続して180から年齢を引いた値を超 える場合、作業強度がピークに達した時点から1分後の心拍数が120を超える場合、急激で激しい疲 労感、悪心、めまい、意識喪失等の症状が発現した場合があること。 4 労働衛生教育 発電所長及び元請事業者は、次に掲げる事項を実施すること。 作業を管理する者や作業者に対して、特に以下を重点とした労働衛生教育を繰り返し行うこと。また、 当該教育内容の実践について、日々の注意喚起を図るとともに、緊急時の措置等、必要な事項について 休憩施設等に掲示すること等により確実に周知すること。 ・ 作業者の自覚症状に関わらない水分及び塩分の摂取 ・ 日常の健康管理 ・ 熱へのばく露を止めることが必要とされている兆候の把握 ・ 緊急時の救急処置及び連絡方法 5 熱中症の重篤化を防ぐための措置 発電所長は、熱中症の重篤化の防止及び被ばく防止の観点から、以下に掲げる措置の内容及びその実 施手順をあらかじめ定め、必要な措置が迅速に行われるよう、医師、作業を管理する者等の関係者及び 作業者に周知すること。また、これらの事項について休憩施設等に掲示すること等により、発電所構内 の作業者に対し確実に周知すること。 ・ 作業からの離脱、身体の冷却、水分及び塩分の摂取等の応急処置
・ 医師等への連絡、医務室等へ搬送、病院等への搬送
また、発電所長は、緊急作業に従事する作業者の熱中症の発生に備え、医師等医療スタッフが常駐す る医務室を適切に運用すること。 元方事業者は、作業指揮者及び作業者に対して、東京電力が設置する医務室の利用を呼びかけるとと もに、東京電力が定めた熱中症の重篤化の防止及び被ばく防止に必要な措置の内容及びその実施手順、 体調に異変を感じた作業者が発生した場合、直ちに医務室に連絡することについて周知徹底を図ること。 6 協力会社に対する指導・支援 発電所長は、元方事業者及び東京電力が自ら行う仕事の関係請負人に対し、熱中症予防の観点から、 上記1から5の措置の徹底について指導するとともに、労働衛生教育の実施、休憩施設の活用等に対し支 援を行うこと。